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CHAPTER 2
「もう君の傍には居られない」
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後期授業開始ぎりぎりに日本に帰ってまずあたしがしたのは、六月から付き合っていた彼氏を振る事だった。
「別れよう」
思えば短い付き合いだったね。
とある喫茶店のテーブル席で目の前に座った男子学生は、常と変わらないへらっとした笑顔のまま固まった。キスもまだだった清い関係もこれで終わり。
「……何で?」
おや。意外に落ち着いている。
流石に成人を目前にした男に対して、さて泣くか喚くか、と思っていた訳じゃない。しかし常日頃のこいつは、寂しがりと言うか甘えん坊と言うか、ぶっちゃけるとヘタレなものだから、多少は取り乱すだろうと踏んでいた。動揺してもそれを表に出さないだけの根性があったとは驚き。
「ごめん。もう君の傍には居られない」
「だから、何で!」
――おい。あたしのちょっとした感激を返せ。感心して損した。
目が赤いぞー。意識の外かもしれないが今はおやつ時でここは学校の近所だ。泣いたって別に構わないけど、あの辺にかたまっているのは君のお友達じゃないかなぁ? 衆人環視の中で醜態を晒したくはあるまい。ん?
「好きな人が出来たの。君より好きな人」
「……誰」
「言う必要がある?」
むしろ君は知らないほうがいいと思うけどね。
「僕の知ってる奴?」
「いや、全然」
「…………」
――さて、この沈黙をどう捉えるべきか。
何か言いたい事があるなら、聞いてやろうとは思っている。それくらいはあたしの義務って言うか、誠意だ。だからあたしもしばらく黙っていた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
――いたんだけど。
あたしは気が長いほうじゃない。自覚してたんだけど忘れてた。10分待った。20分、ただ沈黙して待った。流石にイライラしてきた。煮え切らない奴だと知ってはいたけど。
爪でテーブルを叩くと、はっと圭が顔を上げた。でも、やっぱり何も言わない。
それからまた5分待って、あたしは立ち上がった。
「ごめん、じゃ、あたし授業あるから」
嘘じゃなかった。出席にうるさい先生の講義なんで遅れる訳にはいかないのだ。
「……僕が、嫌になった?」
なのにこのタイミングでやっと話し始めようとするかこのヤロー。嫌がらせか?
「いーや? 好きだよ。彼氏にしてもいいと思ったくらいにはね。でもさ、……」
何て言ったら良いんだろう。好感はあった。今もある。でも、多分元からそんなに心動かされる存在じゃなかった。いなくても平気な人間だった。――て、言ったら流石に不味いよなぁ。
「……恋に落ちちゃったんだ、あたし。一生をかけてもいいって思えるくらいの」
あんたに、その覚悟はないでしょ? そんな関係じゃなかったもんね。プラトニックな、子供のお付き合い。学生同士に相応しい様な。
だけど、二十歳前にして清い恋も何も無いわ。
「じゃあね、バイバイ。元気でやりなよ」
あたしは笑って踵を返した。好きになってくれてありがとう。あたしじゃない別の誰かとのほうが、きっとあいつは幸せになれる。
いつか、酒の一杯でも奢ってやらにゃなるまい。