CHAPTER 4
「死んだも同然」


 講義が終わった後、時間があったのでネットカフェに行った。遠くて電車賃もかかれば料金も他と比べて安くはない、使いにくい店ではあるけど、会員登録しないでも使えるから重宝している。まあ、用心に越したことはない。
 フリーメールの受信ボックスに、一通の新着メールが届いていた。
「よっしゃ!」
 やっと返事をくれたか。待ちかねたんだから。


From: "Chester Grant"<cgrant@xxxxxx.com>
To: "Mika Blackmarsh"<lookingforsnakeyes@xxxxxxx.co.uk>
Subject: re: Looking for Christopher J. Creasy
Date: 2009-10-02

He's as good as dead.


「『奴は死んだも同然』、か」
 チェスター・グラントはニューヨーク在住の作家だ。そう有名でもないけど、邦訳が出るくらいには売れている。元SAS(英国特殊部隊)隊員で、その経歴を生かしてミリタリー物の小説を書いている。ファンレターとファンメールの嵐の果てに、やっと返事をくれた。うーむ、やっぱりこのアドレスはインパクトが強かったか。用件もド直球だったし。最初からこの手でいけばよかった。
 しかし、我ながら大博打だったわ。同じSASってったって、人数が片手で足りる程って訳じゃなし、『彼』のことを全く知らない可能性のほうが高かったのに。やっぱりこのところあたしはツイてる。
 しかし作家の割に返信が1行だけとは、何ともお粗末だ。文才とか趣向とか、そういったものが微塵も感じられない。この人は今でもやっぱり軍人なんだな。
 キーを叩いて即座に返信を打った。


From: "Mika Blackmarsh"<lookingforsnakeyes@xxxxxxx.co.uk>
To: "Chester Grant"<cgrant@xxxxxx.com>
Subject: RE: Looking for Christopher J. Creasy

I don't care even if I'm chasing a ghost.
I'll sure find him.

 幽霊を追ってるんだとしても構わない。
 あたしは絶対に彼を見つける。

『死んだも同然』?

 上等だ。なら死体を見つけてやる。
 あたしは、諦めない。
 だから、情報よこせ。


 ――という旨のことを礼儀正しくかつ簡潔に分かりやすく書いて送信した。ポチっとな。
 何とかしてミスター・グラントを日本に来させられないかなー。あたしがアメリカに行っても良いんだけど、しばらくは学校あるし金もこないだベルファスト行っちゃったせいですっからかんだし。
 サイン会でもやってくんないかな。……日本じゃあんまり売れてないからなー、この人。ま、ダメ元で物は試しに。
 SNSのコミュニティのボードと、いくつかのネットの掲示板にカキコしてみた。出版社にもメールを出してみる。思い立ったが吉日。よし。

 さて、いま何時だ? 向こうだと朝か。いるかな?
 ヘッドセットをつけた。このネットカフェのいいところはもうひとつ。ブースじゃなくて個室なところだ。その分ネカフェ難民の数は押して知るべしだけど。
 スカイプにログインする。――いた、朝っぱらから。
 口角が上がるのを止められなかった。ねぇCJ、あんたひょっとしてネット中毒?



 


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